M&AにおけるPMIの推進では、人事・労務分野の管理機能統合に注力することが必要です。
シリーズ第9回の今回は、人事・労務分野の統合の概要と基本的なアプローチをまとめました。
PMIにおける重要なポイントも解説するので、人事・労務の統合を効率的に進めましょう。
人事・労務分野の機能統合とは?
人事・労務分野の機能統合とは、譲受側と譲渡側で異なる仕組みでおこなわれてきた人事制度や労務管理などについて、M&A後の基本的な形を整えることです。
譲受側と譲渡側では人材の管理、活用、教育などのあり方が異なっています。
M&Aに伴う人事・労務の課題を発見し、譲受側だけでなく譲渡側の従業員も納得して働ける管理体制を整備することが統合の目的です。
人事・労務の不満は離職者が増える原因になり、M&Aのキーパーソンが退職してしまって失敗することもあります。
人事・労務分野の管理機能統合を率先して進めて、両社の従業員がモチベーションを上げて働ける状況を作ることが重要です。
人事・労務分野の機能統合のアプローチ
人事・労務分野の機能統合では、主に譲受側が譲渡側の抱えている課題やリスクを確認して、M&A後の新しい基盤を作るのが大切です。
ここでは具体的なアプローチを4つ紹介します。
就業規則などの規程類の変更・調整
PMIの初期からまず重要なのが、就業規則や人事規程、労務管理規程などの内部規程の変更や調整です。
譲受側と譲渡側の規程類には大きな乖離があることがよくあります。
- 労働時間
- 勤怠管理
- 人事評価
- 福利厚生
などにはさまざまな違いがあるので、早期に見直して統合し、両社の従業員が納得する形に整えることが重要です。
労働契約の内容の見直しと改善
個別の従業員との労働契約の見直しも重要なアプローチです。
譲渡側の従業員の労働契約の内容と、労働の実態を確認すると問題が発覚する場合があります。
「長時間労働をしているのに残業代が正しく支払われていない」、「有給休暇を必要数消化できていない」といった例が典型的です。
また、処遇の不適合が起こっていて優秀な従業員が離職しやすい状況が生まれていることもあるため、PMIの過程で見直しをした方が良いでしょう。
コンプライアンスの遵守体制の整備
人事・労務分野に関する法令を確認して、コンプライアンスを遵守する対応は欠かせません。
労働基準法に違反する労働条件になっていたり、36協定を締結せずに時間外労働や休日労働をするのが当然になっていたりする場合もあります。
労働環境の是正、または労使協定の締結を通して法令を遵守するのがまず重要です。
コンプライアンス遵守を続ける体制を整えて、継続的に従業員を守れる環境を整えましょう。
組織構成や人事配置の最適化
人事はM&Aによって統合された人材をグループとして活用する役割を果たします。
組織構成や人員配置の最適化は、人事・労務分野の管理機能統合において重要なアプローチです。
両社の人事・労務担当者の交流を経て適材適所の配置を検討します。
また、譲受側と譲渡側の間で容易に人事異動をして技術やノウハウを共有できる仕組みを整えることも大切です。
人事・労務分野のPMIをするときのポイント
人事・労務分野の機能統合では重要なポイントが2つあります。
効率と成果を両立させるために必要な点を確認しておきましょう。
M&Aの実施形態に合わせて優先順位を決める
人事・労務分野では、M&Aの実施形態によって取り組むべき内容の優先順位が異なります。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 会社分割
- 吸収合併
このような形態によって初期に取り組むべき点が違います。
例えば、労働契約について、株式譲渡の場合には契約が原則として継続されますが、事業譲渡の場合には個別に承諾を受けなければなりません。
個別に事情が違うため、実施形態に合わせて早急な対応が必要な項目を絞り込んで優先して進めることが必要です。
プレPMIからPMI初期に従業員にヒアリングする
人事・労務分野の管理機能統合で重要なのは従業員の満足度を高め、エンゲージメントの高い働き方を続けてもらうことです。
プレPMIの時期から社内の従業員に雇用条件や労働環境などのヒアリングをして、M&Aに備えましょう。
そして、M&Aが成立したら速やかに情報を共有したり、譲受側が譲渡側の従業員にヒアリングをしたりして改善点を明確にします。
そうすることで円滑に人事・労務分野の管理機能を合理的な形で統合できるようになります。
まとめ
人事・労務分野の管理機能統合は、譲受側と譲渡側の両方の従業員が「働きたい!」と思う基盤を作り上げることに直結します。
就業規則などの規程類の違いがあるだけでなく、個別の処遇のあり方も異なるので統合して平等な形にする必要があります。
人事・労務の管理機能の統合では、従業員が継続して働き続けたいと思う環境を構築することが大切です。
従業員へのヒアリングを早期におこなって、両社の従業員が納得する仕組みを整えましょう。