会計・財務分野の管理機能統合はM&A後の企業価値を正しく把握し、適正な会計・財務処理をおこなっていく上で欠かせません。
PMIでは会計・財務の統合を通してコストシナジーを出しつつ、数字ベースで売上シナジー・コストシナジーの評価をできるようにする体制を整える必要があります。
シリーズ第10回は会計・財務分野の管理機能統合のアプローチを解説します。
会計・財務分野の機能統合とは?
会計・財務分野の機能統合とは、譲受側と譲渡側がそれぞれおこなってきた会計や財務、税務の業務の機能を生かし、M&A後の新しい管理体制を整備することです。
会計や財務などの分野では、実務部分については法令によって定式化されています。
しかし、実務レベルでも以下のように細かなところには違いがあることも考えられます。
- 使用している会計ソフト
- 勘定科目の考え方
- 経費の形状の仕方
また、会計年度や決算フローなども異なることがあり、M&A後には両社の事業をとの兼ね合いも考慮して適切な体制を整えなければシナジー効果が高まりません。
譲渡側が債務を抱えている場合にも、M&A後の対応を求められる場合があるので総合的な統合を目指す必要があります。
会計・財務分野の機能統合のアプローチ
会計・財務分野ではM&A時点における課題の整理と対応をして、管理体制を構築することがPMIで特に重要です。
会計・財務の機能統合のアプローチとして検討すべき内容を確認しておきましょう。
業務内容の適正化
会計・財務の業務を適正に実施する対応がまず必要です。
過去の会計処理の内容を確認し、誤りがあった場合には是正して、正しい方法で会計業務をおこなえるように処理ルールなどを整えます。
経理生産方法などについて具体的して明文化したり、在庫の棚卸しを定式的に実施したりする体制を敷いて管理体制の適正化を推進します。
コンプライアンス遵守と同時に、企業の資産を正しく把握する上で欠かせない取り組みです。
業務の連携と統合
M&Aをしたら、会計や財務の業務は譲受側と譲渡側で統合して取り扱えるようにして、コストシナジーを生み出す基盤を整えることが大切です。
譲受側と譲渡側では会計・財務のワークフローが異なっています。
「使用している会計システムが違う」、「譲渡側がエクセル管理をしている」といったことも少なくありません。
勘定科目の決め方などの会計処理方針に差異がある場合もあります。
収益や費用の計上基準も異なる場合が多いので、両社で全体像を取りまとめて連携し、統合した基準を整える必要があります。
予算と損益の管理体制の整備
予算と損益の管理体制は、統合して整備しなければ業績を統一的な視点で評価できなくなり、シナジー効果の評価が困難になります。
- 予算制度
- 管理会計制度
- 原価計算制度
などについて両社の差異を確認し、管理単位を再定義して予算、利益、損失の管理をするのが理想的です。
業績管理は、企業成長やPMIの取り組みの効果を評価する上でも不可欠なので、早期に取り組むべき点です。
金融コストの削減
金融コストが譲受側と譲渡側の総和にならないように、コスト削減に取り組むことは重要です。
グループファイナンスによるコストシナジーを生み出すアプローチがよく用いられています。
例えば、譲渡側が融資を受けていた際に譲受側が負債を相殺したり、低金利で借り換えをしたりすることが可能です。
会計・財務分野のPMIをするときのポイント
中小PMIで会計・財務分野の機能統合を進めるには重要なポイントが2つあります。
会計・財務の担当者も理解しておく必要がある必須のポイントを簡単に解説します。
担当者の有無をプレPMIまでに確認する
会計・財務分野の管理機能統合をするには担当者の割り当てが肝心です。
中小PMIでは会計・財務は代表取締役などが兼務していて担当者が他にいない場合があります。
プレPMIの時点までに譲受側と譲渡側がお互いに確認を取ることが大切です。
担当者がいる場合には両社から責任者を選出できますが、一方でも担当者がいない場合には統合推進の枠組みをPMI前に検討して、速やかに進められるように準備を整えると成功につながります。
M&Aの実施形態による違いに気を付ける
M&Aの実施形態によって会計・財務の統合のあり方には違いがあります。
株式譲渡の場合には基本的に譲受側と譲渡側のそれぞれの会計・財務のあり方を維持・継続することが可能です。
しかし、事業譲渡や合併などの場合には会計・財務の早急な統合が必要になります。
株式譲渡によるM&Aでは、時間をかけて統合を進めてシナジーを生み出しても問題ありません。
他の場合には、業績や計上方法などのあらゆる情報を引き継ぐプロセスをすぐに進めることが必要です。
まとめ
会計・財務分野の管理機能統合は業績管理に直結するため、M&Aによるシナジー効果を評価するための基盤にもなる重要な取り組みです。
譲受側と譲渡側で、予算管理や経費計上などの基本的な部分に大きな違いがあることはよくあります。
また、代表取締役が兼務していて担当者がいない場合もあるので注意が必要です。
M&A成立後に速やかに基本的な統合を済ませられるように、プレPMIまでに会計・財務の業務事情を共有して方向性を定めるのが大切です。