M&Aのプロセスにおいて税務対応を適切に行うことは、節税の大きなチャンスを生み出すことができます。
税制適格として認められると顕著な節税効果が期待できますが、実際にはその条件を満たすのは困難な場合が多いです。
しかし、プレPMIの段階から慎重に計画と調整を行うことで効果的な節税が可能になります。
この記事では税制適格の基本的な概要と要件、さらにM&Aにおける他の節税戦略について詳しく説明します。
M&Aで節税効果が大きい税制適格とは
M&Aの際に税制適格と認められると、大きな節税効果を享受することができます。
税制適格とは組織の統合や分割を目的としたM&Aプロセスにおける特定の形態で、一定の要件を満たす必要があります。
この概念は、企業の経済的な実態が変更後も継続される方法に適用されるもので、組織の構造が変わってもその本質が保持される場合に該当します。
税制適格によるM&Aの節税効果
M&Aでは、税制適格になると資産や負債を帳簿に記載されているままの金額で、譲渡側から譲受側に移行できます。
この際に課税対象から外れるので節税効果があります。
例えば、株式譲渡によるM&Aをした場合には株式譲渡益による法人税や、株式譲渡益課税などが発生します。
税制非適格で株式譲渡をした場合に比べると、このような税金がかからないので資金効率を上げることが可能です。
税制適格が認められる要件
税制適格が認められるためには、譲受側と譲渡側の間で金銭の支払いが発生しないのが前提条件です。
グループ会社の場合には支配関係が同じ形で継続されること、共同事業では互いの事業の関連性があることや、株式の保有関係について継続されることが求められます。
M&Aをする二社間の関係ごとの税制適格要件は以下の通りです。
100%支配関係のグループ内M&A
- 支配関係が継続
50%以上の支配関係のグループ内M&A
- 支配関係が50%以上の関係を継続
- 主要な資産と負債の引継ぎ
- 約80%の従業員の引継ぎ
- 移転事業の継続
共同事業のM&A
- 発行株式総数の80%以上の継続保有
- 主要な資産と負債の引継ぎ
- 約80%の従業員の引継ぎ
- 関連性の高い移転事業であってM&A後も継続
- 事業規模が約5倍以内またはM&Aも役員が継投
M&Aで税制非適格になるケース
M&Aではほとんどのケースで税制不適格になってしまうため節税できません。
株式譲渡、株式交換、株式移転、現物出資、現物分配、会社分割、合併などによるM&Aで組織を再編する場合には、税制適格要件を満たさないからです。
M&Aでできる正しい節税対策
しかし、M&Aが税制適格にならない場合でも、節税は決して不可能ではありません。
プレPMIの段階からPMIの実施期にかけて、適切な節税対策を計画し実行することで、節税の機会を最大限に活用することができます。
節税対策の具体的な方法を紹介します。
役員退職金による節税
M&Aでは役員退職金によって節税できる可能性があります。
譲渡所得の税率は株式の場合には20.315%ですが、退職所得は所得控除などの減税措置があるので、単純に給与として支給したときに比べて税率が下がる場合があります。
M&Aを実施する前に役員退職金を支払うことで、譲渡価額を下げて譲渡所得を減らし、退職所得の課税に付け替えると節税が可能です。
株式譲渡の活用
M&Aでは事業譲渡に比べると、株式譲渡の方が税率が低くなっています。
事業譲渡で発生する法人税は合計で約31%なのに対して、株式譲渡の場合には税率が20.315%です。
事業譲渡では会社を存続できるのに対して、株式譲渡では経営権の一部またはすべてを譲り渡すことになります。
譲渡側の考え方次第ですが、事業譲渡と株式譲渡では株式譲渡の方が節税効果が高いのが一般的です。
第三者割当増資の利用
第三者割当増資によって節税することもM&Aではよくおこなわれています。
株式譲渡をする代わりに譲渡側が、第三者割当増資をすれば課税を逃れることが可能です。
経営権を譲受側に移すときに、過半数の議決権を与えられる第三者割当増資をするのが基本的な方法です。
ただし、他の株主の議決権が希薄化することに注意して調整をする必要があります。
M&Aに供する資産の選定
M&Aでは、譲受側にとって必要性の高い資産に限定して売却することで節税できます。
取引額を抑えることで直接的に税金を減らします。
不要な資産を先に処分してからM&Aを実行したり、会社分割をしてM&Aをするといったアプローチが可能です。
譲渡益の相殺
M&Aによって発生した譲渡益を経費で相殺すれば節税可能です。
M&A後の事業促進のための設備投資や宣伝広告、のれん償却などを通して経費を計上していくことで法人税などの負担を軽減できます。
経費による譲渡益の相殺はキャッシュフローとの兼ね合いも考えなければならないため、譲受側とも相談して事業継続が可能な税務対策を検討することが大切です。
まとめ
M&Aでは税務PMIを適切に進めることで節税が可能です。
M&Aのストラクチャーによる影響も大きいので、初期から節税を検討しましょう。
節税は譲受側と譲渡側の相互協力によって実現できます。
初期検討を始める段階から綿密に相談して、M&A成立後に大きな成長を遂げる資金力を失わないように節税対策を実施することが大切です。