PMIの進め方⑦ 事業機能統合 (売上シナジー編)

PMIの進め方

売上シナジーは、M&Aの初期検討の間から経営者間で活発に議論されるシナジー効果です。

事業機能統合を通して売上シナジーを生み出すにはどのようなアプローチが有効なのかを理解して、PMIを進めることは欠かせません。

シリーズ第7回では売上シナジーの意味をわかりやすく解説した上で、売上シナジーのアプローチと成功のポイントを紹介します。

売上シナジーとは?

売上シナジーとはM&Aを通して、譲受側と譲渡側の単純な売上の合計値を上回る売上を出すシナジー効果です。

経営資源の相互活用や組み合わせによって、M&Aをしなければ生み出せなかった価値を創出するのが基本になります。

売上シナジーのアプローチ

売上シナジーではあらゆる経営資源が複雑にかかわるので、アプローチ方法が多岐にわたっています。

ここでは売上に直結することからPMIのステップでよく実施される取り組みを見ていきましょう。

クロスセル

クロスセルは譲受側と譲渡側の既存顧客を生かすアプローチです。

譲受側の顧客に譲渡側の商品を提案したり、譲受側の製品との抱き合わせで販売したりすることで売上を伸ばします。

譲受側と譲渡側の対応しているサービス分野が類似していて、顧客ニーズにさらに応えられる可能性を広げられるときにはクロスセルが有効です。

顧客単価が向上してLTVも上げられることが期待できるアプローチです。

LTVとは

Life Time Value(ライフタイムバリュー)の略。

ある顧客が自社との取引を開始から終了までの期間で、どれほどの利益を生み出すかを示す評価指標。

販売チャネルの拡大

販売チャネルは売上に大きな影響があります。

譲受側と譲渡側の持っている販売チャネルを統合して活用したり、M&Aを契機にして新しい販売チャネルでの顧客獲得を始めたりする方法が典型的です。

もともと販売チャネルが異なっていた二社でのM&Aでは、スムーズに効果を出せるアプローチです。

顧客層が広がることで他の製品も売れるようになる可能性もあるため、新規チャネルも含めてポストPMIまで継続的な取り組みをする価値があります。

高付加価値商品の開発

M&Aでお互いの技術や知見を合わせて新製品や新サービスを開発するアプローチは、新しい売上になる商材を生み出せる魅力的な方法です。

それぞれの既存顧客のニーズを加味して、お互いの強みを融合させることにより新しい製品・サービスを生み出せる可能性があります。

リソースの投資が必要になりますが、中長期的に売上を伸ばせることが期待される方法です。

顧客にとっての高付加価値品を調査・検討して開発を始めることが求められます。

ブランドの相互活用によるアップセル

ブランドの活用によって既存の製品やサービスの価値を高め、アップセルをするアプローチもよく用いられています。

単純に譲受側と譲渡側がそれぞれの分野である程度の知名度を持っていたら、統合して新会社になったとプレスリリースするだけで両方のブランドの価値が商材に付与されます。

さらにお互いの商材の内容が相互補完的だった場合には、抱き合わせで販売することで価値を向上させることも可能です。

個々の製品やサービスについては単価を上げて、セット販売では従来の価格を維持するといった戦略を立ててアップセルを狙うこともできます。

売上シナジーを生み出すためのポイント

売上シナジーはM&Aによって利益を生み出す原動力になります。

成功するために重要なポイントを紹介するので参考にしてください。

経営資源の相乗作用を考える

売上シナジーを生み出すには譲受側と譲渡側の両方が寄り添い、経営資源の相乗作用を考えて議論することが大切です。

M&Aの検討段階から取り組むことが必要で、見通しができてから本格的にM&Aを成立させてPMIに取り組むという流れを作るのが理想的です。

どの観点で売上シナジーを出せるのかをキーパーソンで議論して、相乗効果を出す方向性を早期に明確にすることが成功につながります。

ネガティブな面を補う

売上シナジーは、譲受側と譲渡側の弱みを補うという視点で生み出すと効果が上がりやすくなります。

製品の品質は優れていても、企業として知名度がないために消費者に選ばれずに売れないことはよくあります。

一方で、ブランドバリューを持っている企業は新しい製品の開発に苦労していることがあります。

M&Aによって有名ブランドの製品として販売をすると、途端に売れるようになることも珍しくありません。

お互いのネガティブな面を補える可能性を考えて施策を練ると、売上シナジーを作り出せます。

新しい可能性を検討するよりもすぐに価値を生み出せる方法です。

まとめ

売上シナジーは譲受側と譲渡側の持っている企業価値や経営資源を組み合わせることで、それぞれが単独で経営しているよりも大きな売上を生み出すことです。

売上シナジーを出すにはそれぞれの顧客や販売チャネル、製品やサービスの性質などを細かく比較して可能性を模索することが必要になります。

お互いのネガティブな面を補う、お互いの技術を合わせて新製品を開発する、といった視点で検討すると、機能統合を通して売上シナジーを生み出せる可能性を切り開けます。

この記事を書いた人
中野広一

キャブコンサルティング 代表。中小企業診断士。2021年に9年間経営してきた企業を売却。自分自身が売却後の引継ぎに苦労した経験を踏まえ、同じ様な悩みを持つ経営者に寄り添いたいという想いからPMIサポート事業を展開。

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