コストシナジーは、PMIによって事業機能統合を推進する上で重要な観点です。
コストシナジーを最大化できる取り組みを中小PMIで計画的に進めることで、M&Aのメリットは飛躍的に向上します。
第8回は、コストシナジーを生み出すアプローチを詳しく解説します。
コストシナジーとは?
コストシナジーとはM&Aによって譲受側と譲渡側がもともとかけていた経費よりも、少ない経費にして運営することです。
平たく言えば、M&Aを通して経費削減を実現することを指します。
M&Aによって企業規模が大きくなるとスケールメリットが生じるのでコスト削減をしやすくなります。
また、両社が個々に持っていたノウハウやシステムの拡張的活用、あるいは共通で持っていたチャネルの統合によってコストシナジーを生み出すことも可能です。
コストシナジーには売上原価シナジーと販管費シナジーがあるので、区別して的確なアプローチを進めることがPMIの成功につながります。
売上原価シナジーのアプローチ
売上原価シナジーは仕入れや在庫、人件費などの原価についてのシナジーです。
ここでは売上原価シナジーによって原価を減らすためのアプローチを紹介します。
仕入れの一本化
譲受側と譲渡側が共通の資材を使用している場合には、仕入れの一本化による売上原価シナジーを生み出せます。
なぜならスケールメリットによって仕入れ先との価格交渉が可能だからです。
仕入先を一本化することで輸送費や取引・契約にかかわる業務コストも削減できます。
仕入れ先の見直し
M&Aをして両社の仕入れ先をリストアップし、統合的に経営をしていく上で理想的な仕入れ先を見直すアプローチは重要です。
既存の取引先だけでなく、他社も候補として比較検討することでQCD(品質・費用・納期)をまとめて改善できます。
在庫の適正化
原料や商品の在庫を共通管理するアプローチは売上原価シナジーになります。
これは、共通の原料を使用している場合に在庫を融通できるからです。
また、譲渡側が不良在庫を抱えていた場合には、販売計画に合わせて適切な在庫管理を実施する体制を譲受側のノウハウによって整えられます。
生産効率の向上
生産現場の改善を通して効率を向上させればコストシナジーが生まれます。
M&Aによるノウハウの共有によって作業効率を改善し、過剰にかかっている人件費を削減するだけでなく、製品の過剰在庫や原料の欠品などの問題も解決して効率を上げることが可能です。
販管費シナジーのアプローチ
販管費シナジーは主に譲受側と譲渡側が同じことにコストをかけている販売、物流、管理などにかかわる部分を統合することで生み出すのが基本です。
ここでは基本的な販管費シナジーを生み出すアプローチを紹介します。
宣伝広告活動の改善
宣伝活動や広告出稿にはコストがかかりますが、M&Aを通して両社がかけてきたコストを一本化して見直すことで削減が可能です。
- ホームページ運営
- テレビコマーシャル
- ウェブ広告
これらの統廃合をするとコストシナジーを生み出せます。
販売促進活動の最適化
商材の販売促進はM&Aを通じて統合すればコスト削減が可能です。
ブランディングでは共通のノベルティやプレミアムによる販促をおこなえます。
キャンペーンの開催、展示会などのイベントへの参加や出展などにかかるコストも統合してコストを減らせます。
間接業務の質的・量的改善
間接業務はM&Aによって質的にも量的にも改善してコストシナジーを生み出せます。
間接業務の全体像を把握してコストがかかっている業務の詳細を洗い出し、以下のようなアプローチで改善することが可能です。
- 統合
- 代替
- 簡素化
- 排除
物流の見直し
商品の配送サービスをしたり、取引先に商品を送付したりしていて、譲受側と譲渡側で共通性があるなら共同配送による物流のコストシナジーを生み出せます。
物流業者を一本化し、コストパフォーマンスを上げられる契約に切り替えるのが合理的な施策です。
販売チャネルの統廃合
販管費シナジーの中でも重要なのが、譲受側と譲渡側の販売チャネルの統廃合です。
類似のチャネルでそれぞれが販売するよりも、統合して販売した方が販管費が下がります。
店頭販売では店舗などの拠点、インターネット販売ではECサイトの維持費用を削減できます。
管理の業務統合
管理の業務統合はコストシナジーを生み出します。
一方で不足している管理機能を他方が保管すれば効率的な管理が可能だからです。
全体管理も容易になるメリットもあり、ITの活用によって合理的な統合をしやすくなっているのでM&A後に取り組む必要性が高いでしょう。
まとめ
コストシナジーは、譲受側と譲渡側がかけていたコストを減らしてM&Aによる資金確保を進める重要な観点です。
売上原価シナジーと販管費シナジーを生み出し、原価と販管費を削減すれば経営が上向きになります。
コストシナジーにかかわる項目は多いので、中小PMIではプレPMIの段階から綿密に譲受側と譲渡側が相談することが必要です。
スケールメリット以外にもコストシナジーを生み出せる点は多いので、広い視野で可能性を考えて施策を実行するのが大切です。