ITシステム分野の管理機能の統合は、コストシナジーに多大な影響をもたらす可能性がある重要な取り組みです。
PMIでは初期から検討する必要がある分野です。
ITシステムはコスト削減や業務効率化の目的で運用されていますが、リスク要因にもなることが知られているので慎重に統合を進めなければなりません。
M&AではITシステム分野の統合をどのようにして進めたら良いのかを詳しく解説し、シリーズの最後とさせていただきます。
ITシステム分野の機能統合とは?
ITシステム分野の機能統合とは、譲受側と譲渡側が利用しているITインフラやソフトウェアなどに加えて、従業員の情報リテラシーの理解も含めて適切なシステムを整えることです。
ITの運用状況を両社間で正確に把握して比較対照し、M&A後の企業成長を見越した適切なシステムを構築することが目標です。
シナジー効果を得られるITシステムを整備するだけでなく、リスク要因もなくす取り組みが必要になります。
中小企業のM&Aでは、両社のITシステム環境に大きな違いがあるのが一般的です。
中小PMIにおけるITシステム分野の機能統合では、現状把握をして課題を明確にします。
そして、単純に「譲受側のシステムを譲渡側に移行すべきか」、「融合させて相乗効果を生み出せるか」、「まったく新しいITシステムを導入するか」といった多角的な視点で検討して取り組むことが欠かせません。
ITシステム分野の機能統合のアプローチ
ITシステムの機能統合を進めるアプローチは大別すると4つあります。
基本的にはシナジー効果の発揮とリスクマネジメントが主な目的です。
ITインフラの共通化
譲受側と譲渡側では保有しているITインフラが異なります。
ITインフラを共通化して統一的な管理体制を整備することは欠かせません。
両社のIT活用の状況を加味して
- サーバー
- 利用サービス
- ソフトウェアライセンス
これらを一本化すると、スケールメリットによるコストシナジーを生み出せます。
ITインフラの管理や運用の統一化によるシナジーもあり、両社でのデータ共有もしやすくなることから積極的に取り組むと良いアプローチです。
ITシステムの導入
中小企業がM&Aをするときには、ITシステムの導入を進める必要性が高いでしょう。
譲受側が使用しているITシステムを、そのまま譲渡側に移行してシステムを統一しようとする場合があります。
これは情報管理がしやすくなる代わりに、無用な入力や管理の業務が発生して譲渡側の業務コストが上がることがあります。
例えば、財務会計システムの入力項目数が少なかった状況から、多くなると工数が増えるので人件費がかさみます。
譲受側と譲渡側の間で連携可能な異なる財務会計システムを取り入れるという方法もあるので、全体の業務効率の向上と情報の共有化を目指すシステム選定を進めましょう。
セキュリティ対策
情報セキュリティ対策のあり方が譲受側と譲渡側の間で違うことはよくあります。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)、「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」を参考にして、M&Aを契機に安全な体制を整えるのが大切です。
「サイバーセキュリティお助け隊サービス」などのサポートになるサービスの利用も検討して、今後ますます進んでいくIT化に安全に対応できるセキュリティインフラを整えることが重要です。
ライセンス違反等の不正の是正
リスク要因の対策として重要なのがIT利用に関する不正の是正です。
例えば、譲渡側がライセンス違反をしながら優良ソフトウェアを利用している場合があります。
譲受側も現場でライセンス違反をしながら利用していることもあるので、PMIのプロセスの中で是正しましょう。
ITシステム分野のPMIをするときのポイント
ITシステム分野のPMIでは広い視野で推進することが重要です。
目の前の課題を解決することも必要ですが、M&Aをしたら企業が成長していく体制を整えられなければ成功とは言えません。
ITシステム分野はカギを握っているので、統合を進める際に重要なポイントを具体的に押さえておきましょう。
M&A後の体制に合うITシステムを選定する
ITシステム分野では企業成長を見越して、M&A後の体制に合うITシステムを選定することがポイントです。
全体の見直しをして新しい体制で持続的に成長するために必要なITシステムを構築し、真のシナジーを生み出しましょう。
DXの必要性を検討する
経済産業省では、企業が競合優位性を得る方法としてDXを推進しています。
M&AではITシステムの統合によってDXの可能性を切り開くことが可能です。
M&Aを通してDX推進の体制を整えて進めることもできるので、両社の意向をすり合わせて必要性や実現可能性を検討しましょう。
まとめ
ITシステム分野の機能統合は、IT化が進む現代社会だからこそPMIでも必要性が高く、M&A成立前から事前検討を進めておくことが理想的です。
譲受側のシステムを譲渡側に移行すれば良いという単純な考えでは、業務効率の低下やコスト増加が起こるリスクがあります。
両社の現状を正しく把握し、M&A後に持続的な成長を続ける支えになるITシステムを構築することを目指しましょう。
全12回シリーズをお読みくださりありがとうございました。