労務デューデリジェンスは、M&Aにおける労務リスクの回避やPMIの計画に重要な役割を果たす調査です。
M&A用の労務デューデリジェンス標準手順書があれば、適正に実施できて安心してクロージングできるでしょう。
知的財産デューデリジェンスは特許庁が標準手順書を発行していますが、労務デューデリジェンスにも標準手順書があるのでしょうか。
この記事では、労務デューデリジェンス標準手順書について解説していきます。
M&A労務デューデリジェンス標準手順書とは
労務デューデリジェンス標準手順書は、政府刊行物として発行されています。
「M&A労務デューデリジェンス標準手順書」という名称で日本法令が出版している手順書です。
社会保険労務士の野中健次氏の編集、人事労務デューデリジェンス研究会が著者で、労務デューデリジェンスの実行のための基本プロセスがまとめられています。
人事労務デューデリジェンス研究会とは
人事労務デューデリジェンス研究会は、日本法令からの提案を受けて労務デューデリジェンスをテーマとした研究会です。
野中氏が代表を務めていることから「野中ゼミ」とも呼ばれています。
M&A労務デューデリジェンス標準手順書の編集当時には33人の社会保険労務士が集まり、12回の議論を経て完成させています。
M&A人事デューデリジェンス標準手順書
人事労務デューデリジェンス研究会は、労務だけでなく人事についても標準手順書を作成しています。
人事と労務の関連性は深いことから「M&A人事デューデリジェンス標準手順書」は労務の標準手順書と併せて活用すると、効率的に人事労務デューデリジェンスを進められるでしょう。
野中社労士事務所では、人事デューデリジェンスと労務デューデリジェンスを調査対象によって分類しています。
人事労務の定性的な項目は人事、定量的な項目は労務の管轄として標準手順書を仕上げています。
M&Aにおける人事労務デューデリジェンスで手順を知りたいときには、調査項目に応じて標準手順書を選びましょう。
M&A労務デューデリジェンス標準手順書の概要
M&A労務デューデリジェンス標準手順書は、以下の4章立てで構成されています。
デューデリジェンスの基礎から学べる教科書にもなる一冊です。
- 第1章 人に係るデューデリジェンス
- 第2章 義務的調査項目(簿外債務)
- 第3章 任意的調査項目(偶発債務)
- 第4章 労務DDの反映と人事労務管理の対応
M&A労務デューデリジェンス標準手順書では、労務デューデリジェンスの基礎としての概念や手順の説明から始まり、各論・事例の解説を経て結果を反映する方法まで記述しています。
簿外債務と偶発債務に各論が分類されていて、わかりやすくまとめられています。
M&A労務デューデリジェンス標準手順書を活用するポイント
M&A労務デューデリジェンス標準手順書は、労務デューデリジェンスの計画のたたき台として利用できます。
ただ、内容や構成を考慮するとM&Aではより有用な使い方もあるので参考にしてください。
チェックが必要な項目のリストとして利用する
M&A労務デューデリジェンス標準手順書は調査項目別に紹介されていて、チェックポイントが明確になっています。
労務デューデリジェンスの調査リストを作成するときや、開示資料を分析するときに見落としをなくすためのチェックリストとしても活用できます。
事例に基づいてリスクを検討する
M&A労務デューデリジェンス標準手順書は、事例紹介が豊富でリスクを具体的にイメージできるように構成されています。
事例を学ぶと目の前のM&Aで類似のリスクを発見しやすくなるため、リスクを検討する上で比較対照できるリソースとしても活用可能です。
労務デューデリジェンスの結果がまとまったときには、リスクが高い項目から対処していく必要があります。
事例を参照することで、根拠に基づいて優先順位を付けられます。
PMIの実施計画の策定に活用する
M&A労務デューデリジェンス標準手順書では、最終章で労務デューデリジェンスと人事労務管理についての関係性をまとめています。
労務デューデリジェンスによってM&Aをクロージングしない、クロージング前に改善を求めるという選択肢もあります。
しかし、M&Aによって得られる価値が大きい場合には、PMIで労務改善を進めるのが一般的です。
この標準手順書では労務デューデリジェンスの結果を踏まえて、人事労務管理でどのように対応すべきかが簡潔に紹介されています。
労務デューデリジェンスを受けてPMIの実施計画を立てる上でも参考になる資料です。
まとめ
M&A労務デューデリジェンス標準手順書は、日本法令から発行されている政府刊行物で、労務デューデリジェンスの計画や実行の参考になります。
事例が豊富に掲載されていて具体性があり、調査項目のチェックリストとしても、PMIの計画資料としても利用できます。
労務デューデリジェンスを計画的に進めるための一冊として活用してみてください。