M&Aでは譲受側と譲渡側の経営統合が必要になります。
経営統合は、M&Aの初期検討の段階から経営者が意識して取り組まなければならないポイントです。
シリーズ第5回として、中小PMIにおける経営統合の概要をまとめました。
検討すべき項目も詳しく説明しているので、経営統合をスムーズに進められるようにしましょう。
中小PMIにおける経営統合とは
経営統合とはM&A後に譲受側と譲渡側の二社がシナジー効果を発揮できる経営体制を作り上げることです。
中小PMIでは両社の経営体制にも経営理念にも違いがあります。
中小PMIでは強みを掛け合わせるシナジーによって、新しい経営の方向性を見出せる場合もあるでしょう。
M&A後の理想的な経営の仕組みを構築するのが経営統合です。
経営統合の目的・重要性
経営統合の目的は、M&A後に安定して経営できる環境をスムーズに築き上げ、持続的に成長するための経営の仕組みを整えることです。
M&Aをすると譲受側と譲渡側の経営理念や経営指針が合わず、従業員や取引先から十分な理解を得られないリスクがあります。
特にM&Aをする中小企業では、経営者によるワンマン経営がおこなわれているのが一般的です。
ワンマン経営から組織経営への切り替えも必要になるため、経営統合の取り組みを通して抜本的に経営体制を見直し、新しい企業成長の道筋を立てられる仕組みを整備することが肝心です。
経営統合の基本的な検討事項
M&Aによる経営統合では、検討すべき項目が大きく分けると3つあります。
M&Aの実施形態によって必要性に違いがありますが、M&Aの検討段階から全体像を理解して進める必要があるので詳しく確認しておきましょう。
経営方針の具体化
経営方針は、企業が進む方向性や従業員がやるべきことを判断する上で不可欠です。
M&A成立後の経営の方向性をプレPMIまでに具体化しましょう。
- 経営理念
- 経営ビジョン
- 経営戦略
- 経営目標
- 事業計画
といったヒエラルキーを考えて、できるだけ従業員や投資家にわかりやすく整えるのが大切です。
M&Aによって譲受側と譲渡側の両方の従業員が同じ経営方針に従って働くことになるため、譲受側の経営方針をそのまま維持していては、譲渡側の従業員のモチベーションが低下するリスクがあります。
譲渡側の経営理念や企業風土を尊重して、「新しい経営理念を打ち出すか」、「経営ビジョンなどの下位の項目ですり合わせをするか」を検討することが必要です。
経営方針の策定は、推進チームを組織して検討する方法が効率的です。
経営の方向性を検討する目的を明確にした上で、チームで環境分析と目標設定をおこない、具体的な事業計画に落とし込みます。
その後、ポストPMIでPDCAサイクルを回すことも視野に入れて、モニタリングを続ける体制を整えるのが理想的です。
M&A後の経営体制の検討
経営統合ではM&A後の経営体制の検討が重要です。
譲渡側の経営者が退任する場合には、新たに経営者を選任することが必要になります。
譲受側から選定する、譲渡側のキーパーソンを昇格させる、譲受側の経営者が兼任するなどといった方法から最善策を選びます。
- 譲渡側から選定する
- 譲渡側のキーパーソンを昇格させる
- 譲受側の経営者が兼任する
経営者だけでなく、役員についても継続するかどうかを慎重に吟味することが必要です。
譲渡側の経営チームの入れ替えが多い場合には、役員や従業員の不満が高まったり、モチベーションが低下したりする原因になるからです。
譲渡側の経営者と役員が総入れ替えになり、譲受側の人材や外部の人材が就任すると従業員としては大きな変化があって、今まで通りには働けなくなるという不安が募ります。
経営体制はM&A成立後に一度に変更する方法が適切とは限りません。
経営チームの人員計画を立てて、段階的に変更する方法が適している場合もあります。
グループ経営基盤の整備
M&Aを通してグループ経営の体制を整えるには、基盤の整備が必要です。
譲受側と譲渡側の経営チームがコミュニケーションを取れる機会を設けて、協力して事業を進められる体制を整えるのが大切です。
取締役会や経営会議に相互に役員を配置して、経営や事業の状況をスムーズに共有できる体制を構築するとシナジー効果を生み出しやすくなります。
また、経営統合では会議体や会議規程の見直しも必要です。譲受側と譲渡側の意思決定プロセスを明確にして必要な会議体の設置と人員の配置をすることで、経営をスムーズに進められるようになります。
まとめ
経営統合はM&Aによって一体的なグループ経営を実現し、シナジー効果を発揮する上で欠かせません。
M&A成立後の体制で、役員や従業員がモチベーションを上げやすくなるように経営方針を立てて、経営体制を構築することが重要です。
M&Aの初期検討やプレPMIの段階で経営者や主要役員の間で綿密に相談し、M&Aが成立したら速やかに取り組みを始められるように準備しましょう。
ポストPMIでの改善も見据えて経営統合の成果についてモニタリングを実施し、改善を進めていくと中小PMIが成功する確度が高まります。